官報利用者の声

官報の法的位置付け

西村あさひ法律事務所
弁護士

山本 憲光

国立印刷局とのお付き合いはもう15年にもなる。はじまりは私が法務省で商法の改正や会社法の制定チームの一員として電子公告制度の導入を担当していたことからである。電子公告が導入された現在でも、中小企業を中心に官報を公告方法とする会社は大変多い。一方で、組織再編行為等における債権者異議申述公告のように、官報によることが法で定められている公告もある。法定公告は会社が株主や債権者等のステークホルダーに対して重要事項を通知するものであり、その事項は厳格に法定され、もしその事項の一つにでも瑕疵があれば会社のコーポレートアクションの効力そのものにも関わりかねない。

私は、弁護士となって以降は、官報における法定公告のひな型作成やその他法定公告にまつわる各種ご相談にあずからせていただいてきたが、このような国民の権利義務に直結する公益性の高い業務に関わらせていただいていることは本当に弁護士冥利に尽きることであると思っている。

また、官報のもう一つの柱は何といっても新たに成立した法令の公布方法(媒体)であるということである。「六法全書」の原文は官報に載っていることをきちんと認識している人の割合はそう多くないのではないだろうか。業務上、施行まもない特別法を参照しなければならないことも多いが、こういった法令は官報を見るほかない。

法律実務家にとって官報は欠くべからざる存在だが、驚くことが一つある。それは、官報が法令等の公布方法であることの根拠は法令になく、判例であるということである。即ち、根拠法であった「公式令」が戦後廃止され、ある刑事事件において法律の公布の有無が争いとなったとき、最高裁が「(公式令廃止後も)特に国家がこれに代わる他の適当な方法をもつて法令の公布を行うものであることが明らかな場合でない限りは、法令の公布は従前通り、官報をもつてせられるものと解するのが相当」と判断し(最大判昭和32年12月28日刑集11巻14号3461頁)、この状態がいまだに続いているのである。公布が、国民の権利義務を定める法令の効力発生要件であることを考えると、その公布方法に法令上の根拠を与える必要があるのではないだろうか?

ともあれ、我々法律実務家にとってだけでなく、広く国民一般にとって官報の重要性は今後さらに増すことはあっても揺らぐことはないだろう。情報発信の自由が過熱し、何が真実の情報であるか見分けにくくなっているインターネット時代においてはなおさらである。

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