平成18年度 第2回特別展
明治における古美術調査の旅 国華余芳の誕生

開催期間 平成19年1月5日(金) ~3月4日(日)《休館日を除く》


■記念講演 『明治初期における印刷局の多色石版印刷』
日時 : 平成19年2月18日(日) 14時~15時30分
講師 : 植村 峻氏 (お札と切手の博物館顧問、紙幣研究家)
会場 : 当館2階 視聴覚室 入場無料


■ビデオ上映
朝日放送が製作・放映したドキュメンタリー番組『隠された正倉院宝物の美-お雇い外国人の技の秘密』を一日3回上映します。(上映時間25分)
第1回目 10時30分~
第2回目 13時30分~
第3回目 15時00分~
会場 : 当館1階 コミュニケーションルーム 入場無料


■石版印刷の実演 : 期間中の毎週土曜日
国華余芳に用いられた印刷技法 ・石版印刷の実演を行います。

国立印刷局は、明治4年の創業以来130年余、一貫して紙幣や切手などを製造し続けていますが、その草創期において、紙幣や切手の製造以外にもさまざまな事業を行い、その持ち得る技術を駆使して種々の製品を残していることはあまり知られていません。
そこで、今回の特別展では、明治12年に約5か月間にわたって実施された古美術調査旅行と、その旅の成果として誕生した美術図集の先駆け『国華余芳(こっかよほう)』をテーマに、旅の意義と明治時代における印刷技法に迫ります。

<古美術調査の旅と国華余芳の誕生>

明治12年5月、印刷局員13名は9月までの142日間、東海・近畿地方へ文化財調査の旅に出ました。この旅の目的は、日本古来の美術の粋を写して後世に伝え、また印刷局の技術向上を目指すことでした。旅後には、その成果として『国華余芳』などの印刷物を刊行しました。『国華余芳』とは、旅先で観覧した文化財や山川風景を選りすぐった図集・写真帖です。なかでも特筆すべきは、多色石版印刷で精巧に再現された正倉院御物や伊勢神宮神宝で、カラー写真の技術がない当時、写実的な『国華余芳』は美術品図集の先駆けとなりました。
印刷局員による文化財調査は、明治の元勲や天皇の肖像画を残したことで知られるお雇い外国人キヨッソーネの建言によるもので、フェノロサ・岡倉天心らの調査より早くに行われた文化財調査の一つでした。
旅の成果である一連の刊本は、いずれも当時の印刷局で多くの研究と工夫を重ねた最新の技術を用いたものです。特に多色石版印刷の『国華余芳』は、非常に手の込んだ技術をもって宝物の材質・色彩の濃淡を再現した図集として、当時突出していました。

また『国華余芳』は、

・印刷局による事業(文化財調査)の記録

・明治初期の文化財・建造物の姿(現在は修復されて見ることができない)記録

・印刷技術(現在ではほとんど使われない多色石版印刷、その他当時の技術)の記録

であり、発刊当時は日本美術(文化)の見直し・普及を、また現在では当時の美術・技術の伝承を、それぞれ役割として果たしてきている貴重な美術品図集です。
本展では、『国華余芳』の美術的・技術的側面、そしてそれがどのように役立ったのかという機能的側面から印刷局による文化財調査の意義を解明するものです。
美術や歴史に関心のある方々を始め、より多くの皆様に足を運んでいただけましたら幸いに存じます。