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玉川大学教育学部 准教授 松山 巌

更新日:2024年1月22日

官報を味わう

玉川大学教育学部
准教授

松山 巌


大学で司書課程の科目を教えているのですが、官報を見たことのある人は?と聞くと、まずいません。他の学生よりも図書館に行く回数が多いであろう彼らですら。もちろん、本学の図書館にも雑誌コーナーに毎日並んでいるのですが、手に取られている場面に出会ったこともありません。法学部がなく、また公務員試験を受ける人も少ないとはいえ、いささか寂しさを覚えます。
いくつかの科目では、授業の中で官報を扱います。「図書館情報資源概論」では、逐次刊行物の一つとして、官報や白書を取り上げます。また、「図書館制度・経営論」では日本の図書館制度を支える様々な法令について学ぶのですが、改正直後は法令データベースも未更新なので、官報に載った一部改正法の本文を読んで、改正の織り込み作業をさせるなど、ナマの条文に触れて自分で考える機会を持たせたいと考えています。

彼らに、法律が国民に対して拘束力を持ち始めるのはいつか、と聞くと、「国会を通ったとき」という答えが返ってきます。憲法第59条に「両議院で可決したとき法律となる。」とあるので、その時点で成立はしているが、実際にはそのあと一連の手続を経て官報に掲載された日の午前8時半とされているんだよ、と官報の重要性を説明すると、意外と関心を持たれます。
10年に一度改正される学習指導要領や、毎年3月に公示される地価など、その業界の人にとっては非常に重要なドキュメント。これらはしばらく待っていればそのまま図書としても刊行されますが、いち早く公式文書として正確な全文が載るのは官報。だから、地価公示の日の午前中に官報の販売店に行くと、近くの不動産屋さんがその日の号を何部かまとめて取りに来るなんて姿も以前は見られた。ところで、ページの多い日に1日分だけ買うよりも1か月分定期購読する方がずっと安かったりする。不思議だね。――などという話をしていましたら、ある学生さんが「1部売りの32ページごとに何円という値段の決め方は、お肉屋さんの量り売りみたいですね」。ユニークな発想に感心しました。

また、◆紙面は縦書きなので横書きを入れるときは90度回転させる ◆国家試験の合格発表や、企業の決算や、行旅死亡人や、自己破産者や、失効したパスポートの番号など、法令だけでなく実に様々な情報が掲載されている ◆一見そっけなく見えるかもしれないが、じっくり読んでいると意外に味わいがある――などの話もします。
仕事で官報を日々使っている人からすると、こういった「趣味的な読み方」は邪道と感じられるかもしれません。しかし、彼らが司書になった際には、官報そのものを日々読むというよりも、情報を求める利用者の手助けをできるように、情報源の一つとして、日々届く官報をファイリングすることになるでしょう。その際に、機械的な作業ではなく、少しでも「活きている刊行物」として接し、そして利用者さんから問い合わせが来た際に官報を情報源として活かしてもらえたら、と考えています。実際、私が生まれて初めて官報を目にしたのは、高校生の時に近所の図書館に並んでいたグレーの官報専用ファイルでした。

さて、この原稿は平成の最後の年の2月に書いています。もうすぐ「元号を改める政令」が載った官報特別号外が出るのでしょうが、そこにどのような2文字が書かれるのか、気になっています。

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