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東京都江戸東京博物館 都市歴史研究室 学芸員 岩城 紀子

更新日:2024年1月22日

歴史資料としての官報

東京都江戸東京博物館
都市歴史研究室 学芸員

岩城 紀子


『官報』という名前を聞くと、思い浮かぶ情景があります。
私は、大学では史学科に籍をおき、日本近代史を専攻していたのですが、確か4年生になった頃から、大学内の法学部・経済学部が所管する法経図書室でアルバイトをしていました。図書の出納のお手伝いもしていたので、普段は入れない閉架書庫の中にも入らせてもらっていました。当時は、卒業論文のこともぼちぼち考え始めていた時期で、寺内正毅内閣の臨時外交調査会をテーマとしていた私にとっては、政治・外交史に関する多くの書籍がつまっているこの図書室の書庫は、それはそれは魅力的な空間でした。その一角に、ずらりと並んでいたのが、「太政官日誌」以来、連綿と発行された『官報』の合本でした。

今の学生の皆さんには、想像がつかないかもしれませんが、私が学生だった時代、わずか30年前のことですが、インターネットはもちろん無く、コンピューターによる書籍や記事の検索機能などもありませんでした。自分の調べたいことについての書籍や論文、新聞記事などを探すには、ひたすら図書カードボックスのカードをめくる、雑誌の目次を片端から見て探す、といった地道な作業を繰り返すほかありませんでした。『官報』についてもそれは同じでした。例えば、外交調査会の設置について、『官報』でどのように公告されたか知るためには、実際に設置された日付からあたりをつけ、その前後の日付の頁を一枚一枚目で追って探す、というように。

2019年の4月から、東京都江戸東京博物館でも職員を対象に「官報情報検索サービス」を導入しました。日付やキーワードで該当の情報を即座に検索でき、原文を画面上で実際に確認できるこのサービスは、私のような「昭和」な人間からすると、まさに隔世の感があります。私自身は、現在は主に明治から大正期にかけての社会史や文化史に関心も持っているため、『官報』については昭和戦前期までを対象に公開している国立国会図書館のデジタルコレクションを利用する場合が多く、昨年度に発表した、久保田米僊(くぼたべいせん)という明治期に活躍した画家についての論考を執筆する際にも利用しました。米僊は、当時とても人気があった日本画家で、新聞の挿絵画家としても活躍したのですが、生来の好奇心ゆえ、1889年のパリ万国博覧会に向かうため船で海を渡り、その道中の様子や万博の賑わいを挿絵入りのレポートとして、『京都日報』という新聞に連載しました。この時の渡航について、明治政府がどのような規定を設けて、万博への出品や関係者の渡航を許可したのか、もちろん当時の新聞にも情報は掲載されていましたが、国家が国民に対して正式に通達した内容を史実として確認するには、やはり『官報』にあたる必要がありました。このように、私のような歴史を研究する者、特に日本近現代史を探ろうとする者にとっては、『官報』は極めて重要で有効な一次資料であるといえます。

「官報情報検索サービス」は、国会図書館のデジタルコレクションで公開されている期間の後を引き継ぎ、昭和22年の日本国憲法施行以降の『官報』を知ることができます。すでに平成を越え、令和の時代を迎えた今、戦後昭和も歴史として検証すべき時代となりました。私たちの博物館も、明治以降、戦後高度経済成長期までを時代範疇(はんちゅう)として、展示や講演会、調査研究などの活動を行っています。「官報情報検索サービス」は、学芸員のこうした活動を支える有効な検索機能として、活用されるものと期待しております。

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