令和5年度秋の特集展

すかしの技と美

工芸官作品展

お札と切手の博物館

すかしとは?

すかしは「すき入れ」ともいい、紙を光にすかすと現れる図や文字を指します。お札に採用される重要な偽造防止技術のひとつで、光にすかして見ることで真贋(しんがん)が分かります。

すかしの原理

すかしは、紙をすく段階で紙の厚さを部分的に調整し、図柄を表現する高度な製紙技術です。周囲より薄い部分は白く(白すかし)、逆に厚い部分は黒く見えます(黒すかし)。お札では、この2種類のすかしを組み合わせた精巧な「白黒すかし」を採用して、偽造を防いでいます。

明治12(1879)年、越前和紙の伝統技法を元に、印刷局が開発したすかしの技法は、改良を重ね、145年を経た現在も有効な偽造防止技術となっています。そして、その技術力の高さは世界的にも認められています。

なお、お札に使われる白黒すかしは、明治20年以降、現在まで印刷局外での製造は禁止されており、門外不出の技術となっています。

歴代のすかし

現在使っているお札には、すかし用に印刷のない部分があり、その位置に肖像のすかしが収まっています。しかし、このスタイルが確立するまでには、紆余曲折がありました。

※お札の上でカーソル()を動かすとすかしがご覧いただけます。いろいろなところを探してみましょう。

最初のすかし
図柄:トンボと桜(白すかし)
改造紙幣 5円
明治15(1882)年
印刷局が近代的なお札の製造を始めてから5年後、お札の偽造防止対策の強化の一環として、初めてお札にすかしが採用された。
最初の黒すかし
図柄:宝尽くし模様(打ち出の小槌、分銅ほか)、「日本銀行券」の文字
日本銀行兌換銀券 旧10円
明治18(1885)年
現在の白黒すかしの原型
図柄:桐葉模様(「銀貨壱円」の文字[黒すかし])
日本銀行兌換銀券 改造1円
明治22(1889)年
印刷局が開発した特殊な技法による白黒すかし。白黒の滑らかなグラデーションで桐葉模様が表現されているのが分かる。
空欄に
肖像のすかしを採用したお札
図柄:大黒
日本銀行兌換券 乙5円
明治43(1910)年
欧米のお札にならって、初めて空欄を設けて笑顔の大黒の顔をすき入れたお札。
しかし、この見慣れないお札は、従来のものに慣れていた人々には馴染まなかった。
すかしの部分が「印刷漏れ」と誤解されたほか、同部分の耐久性が低く、すぐに破れてしまうといった問題も起こった。結果、こうした新たなすかしの試みはしばらく姿を消すこととなった。
全面に模様のすかしを入れたお札
図柄:網目模様と「日本銀行」の文字
日本銀行兌換券 丙5円
大正5(1916)年
空欄や肖像のすかしをやめて、お札の全面に模様や文字のすかしを入れるスタイルへと戻った。
初めて機械化された白黒すかし
図柄:「拾圓」の文字、古代瓦模様
日本銀行兌換券 丙10円
昭和5(1930)年
白黒すかしの技法は高度で複雑であったため、従来のお札用紙は、緊急時以外はすべて手すきで製造されていた。その後、昭和9(1934)年に専用の機械が開発され、以降は機械製造となった。
復活した肖像のすかし
図柄:聖徳太子
日本銀行券 C5000円
昭和32(1957)年
初めて肖像のすかし(大黒)が登場してからおよそ50年後、再びお札に採用されることとなった。
白黒すかしの機械化には成功したものの、肖像のすかしは特に難易度が高く、紙の伸縮や水分などの調整のほか、用紙原料のチリが顔の部分に入らないようにするといった問題を克服しなければならない。また、決まった位置にズレなくすかしを入れる技術も重要となる。この間には、関東大震災や金融恐慌、第二次世界大戦などの緊急事態が続き、すかしの品質を追求することが叶わなかったこともあって、肖像のすかしが再び登場し、そのスタイルが定着するまでには相応の時間を要したのである。

工芸官の作品

工芸官と呼ばれる印刷局の専門職員は、お札の原版の彫刻やデザイン等に携わるほか、すかしの作製も行っています。伝統を継承するため、また技術練磨や研究などを目的に、すき入れ作品の数々を作製しています。ここでは、その一部をご紹介します。ぜひ会場で実物のすかし作品をご覧ください。

明治初期の作品
亀戸八幡(亀戸天神社)
明治24(1891)年か
印刷局のすき入れ技術の開発・向上に大きく貢献した越前出身の紙すき職人が手掛けた作品。
昭和期の作品
鳳凰像
昭和45(1970)年
この鳳凰の石像は、明治9(1876)年から大正12(1923)年の関東大震災まで東京・大手町に操業した印刷局の印刷工場に据え付けられていたもの。震災や戦禍をくぐり抜け、東京・北区の東京工場に現存する。
昭和期の作品
キヨッソーネ
昭和46(1971)年
キヨッソーネ(1833-1898)は、印刷局のお雇い外国人の一人。工芸官として自らも明治期のお札や諸証券の原版彫刻に従事しながら、彫刻のみならず印刷、製紙等の技術を伝授し、「日本近代紙幣の父」と呼ばれる。
現代の作品
舞妓シリーズ「毬(まり)」「薫風」
平成27(2015)年
きらびやかな簪(かんざし)、着物や帯の刺繍、布地の質感まで繊細に表現している。

お札のすかし風画像を作ろう

お手持ちの写真やイラストをお札のすかし風に加工し、印刷することができます。

画像はサーバー等にアップロードされることはありません。

作成した画像の権利は作成者に帰属します。フリーライセンスを除くご自身以外の著作物の利用はご遠慮ください。

※ファイルを選択し、位置を決めたらクリックしてください。(画像の位置が固定されます)
※モバイル端末では画像の移動は行えません。PCをご利用ください。
特別展示ページへ戻る