見どころ解説
更新日:2025年10月30日
特集展の見どころについて紹介しています。
工芸官の彫刻風景
聖徳太子の肖像(部分拡大)
日本銀行券 C5000円 昭和32(1957)年
お札に描かれている肖像は、写真のように見えますが、実は手彫りによる精巧な版画です。拡大して見ると、その顔は細かな線と点で構成されていることが分かります。
原版を彫刻しているのは、国立印刷局の専門職員である工芸官です。その細かさは、1ミリの幅に10本以上の線を彫れるほど。そして、そこには、彫刻者独自の美意識や解釈、表現技法が用いられています。こうした高度な技と個性(芸術性)によって偽造防止効果が高められることから、肖像は150年にわたってお札に採用されているのです。
ここでは、現在まで印刷局で受け継がれる彫刻技法を確立した明治期の工芸官・大山助一が彫刻した原版と印刷物を展示しています。また、日本のお札史上最も多く登場した肖像、聖徳太子を彫り上げた4人の工芸官と、その肖像の差異を紹介します。会場で、ぜひ実物のお札を見比べてみてください。
(1)加藤倉吉

子爵斎藤実像(部分拡大) 昭和9(1934)年
加藤倉吉は、戦時期に活躍した工芸官です。日本のお札や切手のほか、日本が戦地で使用するための膨大な数のお札や切手の原版彫刻の主力として、印刷局史上最も多くの原版を彫り上げました。
ここでは、在職中の習作と、退職後に作家として手掛けた作品を併せて展示しています。印刷局独自の写実的な肖像と、作家としてのオリジナル作品との対比をお楽しみください。
(2)倉吉の弟子・渡部文雄、押切勝造、笠野常雄
押切勝造が彫刻した凹版切手(部分拡大)
(左)自然保護シリーズ第1集 20円 昭和49(1974)年
(中)第2次国宝シリーズ第8集 100円 昭和53(1978)年
(右)第1次国宝シリーズ第2集 15円 昭和43(1968)年
笠野恒雄が描いた岩倉具視のコンテ画
加藤倉吉の弟子で、聖徳太子を彫刻した渡部文雄、押切勝造と、同時代に活躍した笠野恒雄がそれぞれ手掛けたお札や切手と習作を紹介します。
ここでは、国宝等をモチーフにした昭和期を代表する切手の名品と、コンテ画(原図)にご注目ください。
コンテ画は、肖像の彫刻前に、線の配置等を考え、クレヨンの一種であるコンテで陰影や濃淡を細かく描いたもので、原寸の4~6倍の大きさになっています。原図(下図)とはいえ、迫力ある実物の作品をぜひご覧ください。
